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第3巻第1号 (2011)

下方・上方視野における幾何学的図形の空間的方位が視覚誘発電位に及ぼす効果

伊藤元雄、佐部利真吾

アブストラクト

 幾何学的図形の空間的方位がパターン出現視覚誘発電位(VEP)に及ぼす効果に関する検討の一環として,長さが等しい輪郭線の縦・横比の異なる長方形が下方視野,上方視野に両眼視で提示された.各視野の長方形の縦・横比の条件は5:1, 4:2, 3:3, 2:4, 1:5の5種であった.12名の実験参加者を対象に,一過性VEP が後頭隆起部 (I),その上方5, 10, 15cm (I5, I10, I15) から基準導出され,図形条件とブランク(対照)条件との差波形が記録された.下方視野では陰性電位のN1波(平均頂点潜時約137ms),上方視野では陽性電位のP波(約132ms)が取得された.反復測度ANOVA が視野ごとに部位I5の振幅と潜時に対して実施された.N1波,P波は,いずれも図形が縦長から横長になるにつれ,漸次有意な振幅の減少を示した.潜時に関しては,視野× 空間的方位の交互作用が有意傾向であった.振幅に関する本実験の結果から,空間的方位によっても角度性の効果(伊藤・佐部利,2010) と同様の効果が生ずることが明らかとなった.

キーワード形の知覚、視覚誘発電位、下方・上方視野、空間的方位

幼児における複数う歯発生要因構造と牛乳摂取の関連

大須賀惠子、酒井映子、佐藤祐造

アブストラクト

目的:幼児における複数のう歯発生に関与する要因構造およびその中でも一日平均牛乳摂取量と牛乳摂取に関わる生活習慣の影響を検討した.
対象と方法:対象は,1997~2001年度に出生し,1.6歳児健康診査,3歳時健康診査の両方をN町で受診した232名の幼児である.方法は,母子管理票に記載されている健診データ103項目中から,1.6歳児健康診査・3歳児健康診査時における歯科健診結果および母親が記入した問診票から生活習慣,生活環境等を抽出し,3歳時う歯数(2歯未満と2歯以上)を従属変数,生活環境・生活習慣等8項目を独立変数とした二項ロジスティック回帰分析等を用いて分析した.
結果:二項ロジスティック回帰分析の結果,複数う歯保有と有意に関連があった変数は,地区特性(農村的地区は都市的地区の2.7倍),1日平均牛乳摂取量(50ml 未満の者は50ml 以上の者の2.6倍),出生順位(第2子以降に出生した者は第1子の2.2倍)であった.1.6歳時・3歳時の1日平均牛乳摂取量の最頻値は200ml であったが,ほとんど飲んでいない者から1000ml 程度飲んでいる者まで個人差が大きいことが明らかになった.さらに,1.6歳時に50ml 未満だった者46名のうちの41.3%が3歳時にも50ml 未満であり,1.6歳時の牛乳摂取習慣が3歳時まで継
続していた.複数う歯保有率は,50ml 未満41.3%,50ml 以上400ml 以下23.4%,401ml 以上54.5%で,1日牛乳摂取量が多くても少なくても,複数う歯を保有する割合が高くなっていた(p=0.008).
考察および結論:3歳時複数う歯保有が1日平均牛乳摂取量50ml 未満の者に高率である理由は,タンパク質,カルシウム,脂肪,必須アミノ酸などの栄養成分が豊富に含まれる牛乳を長期間に亘って少量しか摂取しないために,歯質や口腔環境に対する栄養バランスが悪くなり,マイナス影響を与えた可能性が示唆される.一方,401ml 以上摂取している者が高率である理由は,全食物摂取量に占める牛乳摂取量の割合が過剰でも,栄養学的なバランスが悪くなり,マイナス影響を及ぼすことが考えられる.さらに,牛乳摂取が不適切に行われると,「哺乳瓶の使用」「飲みながら寝る」「間食時間を決めない」などの好ましくない生活習慣を伴うために,これら複合要因の相互作用によって,複数う歯の保有という健康問題を引き起こし,幼児の発育・発達をも阻害する恐れがあると推察される.

キーワード幼児、複数う歯、1日平均牛乳摂取量、生活習慣、生活環境、複合要因

慢性期ディサースリアにおける言語治療の検討-音響学的手法を用いた治療効果の評価-

杉山裕美、田中康博、田中誠也、高見観、北村洋子、古川博雄、加藤理恵、辰巳寛、山本正彦

アブストラクト

 慢性期かつ重度の混合性ディサースリア(dysarthria,運動障害性構音障害)例に対して,ペーシングボードとリー・シルバーマンの音声治療(Lee Silverman Voice Treatment; LSVT)を用いた言語治療を施行した.評価および治療に際し音声と発話について音響学的に分析し,主に以下の結果を得た.

  1. 治療前の標準ディサースリア検査(Assessment of Motor Speech for Dysarthria, AMSD)における発声発語器官検査では,口唇と舌の運動範囲の低下,舌の交互反復運動の異常を認めた.発話の検査では,嗄声,声量の低下,構音の歪み,プロソディの異常を認め,発話明瞭度は極めて不良であった.
  2. Multi-Speech による音響分析結果では,治療後にアンダーシュートの消失と音節の明確化,閉鎖音の閉鎖区間や子音発声時の音圧の変化を認めた.音響分析で得られたこれらの音響学的変化は,聴覚的に発話明瞭度の改善を裏付けるものであり,ペーシングボードが発話速度を低下させたことによるものと推察された.
  3. Multi-Dimensional Voice Program(MDVP)による音声の音響分析結果では治療後は,周期の変動性(STD),周期のゆらぎ(Jitt),振幅のゆらぎ(Shim),雑音(NHR),音声不整(DUV)を中心に各種音響パラメータの改善を認めた.音声の音響分析で得られたこれらの改善は,LSVT による喉頭レベル(発声)の機能改善によるものと考えられた.
  4. ペーシングボードとLSVT を併用した言語治療によって,急速かつ劇的に発話明瞭度が改善し,実用コミュニケーション能力の拡大を図ることができた.
  5. 慢性期のディサースリア例に対して,生活場面に沿った側面的支援の介入によりコミュニケーションパートナーが増加し,コミュニケーション範囲が拡大した.
 これらの結果から,慢性期かつ重度のディサースリア例への言語治療にも,音響分析による発声ならびに発話機能の定量化は,ベースラインの評価および適切な治療方法の選択とその治療効果の継時的な評価にとって有用な手段であったことが示され,慢性期にあるディサースリア例に対しても積極的に言語治療を行う必要性があることを示唆するものであった.さらに,慢性期におけるディサースリア例では,発声ならびに発話の機能面や能力面の改善に加え,言語聴覚士によるより生活に密着した「活動・参加レベル」に対する多面的なアプローチも重要であることが示唆された.慢性期のディサースリア例に対する言語治療の報告は乏しく,事例の蓄積とともに音響分析による言語治療効果の検討が必要である.

キーワード慢性期ディサースリア、音響分析、ペーシングボード、LSVT、活動・参加レベル

弛緩性ディサースリアに対する言語病理学的および音響学的検討

田中誠也、坂野晴彦、田中康博、勝野雅央、鈴木啓介、須賀徳明、橋詰淳、辰巳寛、祖父江元、山本正彦

アブストラクト

 弛緩性ディサースリアを呈する代表的疾患として運動ニューロン疾患があり,その1つが球脊髄性筋萎縮症(spinal and bulbar muscular atrophy,SBMA)である.SBMA はアンドロゲン受容体におけるCAG リピート数の異常延長を原因とする,緩徐進行性の成人男性に発症するX連鎖性劣性遺伝性疾患である.球症状としてディサースリアと嚥下障害が出現し,誤嚥性肺炎が死因となることが多い.したがって,四肢の症状とともに発声発語器官障害の病態把握はSBMA の発症メカニズムや予後の推察に重要と考えられるが,詳細な言語聴覚学的評価はこれまで報告されていない.本研究では,遺伝子診断にて確定したSBMA 患者について,包括的機能評価として標準ディサースリア検査
(Assessment of Motor Speech for Dysarthria,AMSD)を,発声と鼻腔共鳴に関する客観的な評価として音響分析(Multi-Dimensional Voice Program:MDVP およびNasometer)をそれぞれ施行し,以下の結果を得た.

  1. AMSD において,全ての症例の口唇・頬部に運動機能低下を認め,口腔構音・鼻咽腔閉鎖機能に強い障害がみられた.さらに,総合評価点と発声・鼻咽腔閉鎖・舌運動機能との間にそれぞれ有意な相関がみられた.
  2. MDVP では,周期のゆらぎに関するパラメータ(Jita,Jitt,RAP,PPQ,sPPQ,vF0),雑音に関するパラメータ(NHR,SPI),震えに関するパラメータ(FTRI,Fftr)では有意に高値を示した.多くの振幅のゆらぎに関するパラメータ(ShdB,Shim,sAPQ,vAm)には有意差を認めなかった.
  3. Nasometer 検査では,文章課題での開鼻声値の平均値(mean-N)において有意に高値を示し,最小値(min-N)と最大値(max-N)では有意差を認めなかった.母音の持続発声では,高母音のmax-N において有意に高値を示した.
  4. 舌運動機能低下とCAGリピート数,開鼻声値と罹病期間との間にそれぞれ有意な相関を認めた.
 これらの結果から,発声発語器官の包括的機能評価および音響分析によって,SBMA の球症状の特徴として,発声機能,鼻咽腔閉鎖機能,および口腔構音に関わる口唇・頬部運動機能,舌運動機能の機能低下が明らかになった.発声発語器官では口唇・頬部の運動機能障害が初発となり,CAG リピート数に規定される舌の運動機能障害が始まり,鼻咽腔閉鎖機能障害が罹病期間とともに重症化する可能性が示唆された.

キーワード運動ニューロン疾患、弛緩性ディサースリア、鼻咽腔閉鎖機能不全、AMSD、音響分析

植物系バイオ燃料開発の可能性-バイオテクノロジーと社会との架け橋-

山川清栄

アブストラクト

 近年エネルギー資源としてのバイオマスはCO2濃度増加による地球温暖化や化石燃料枯渇によるエネルギー危機の問題を解決する契機となる素材として世界的に注目を集めている.一方,依然として遺伝子組み換え作物への社会的抵抗感は根強い.本稿ではバイオ技術の実用的価値を示す研究題材としての観点から,植物由来のバイオ燃料の有用性と将来性について最近の研究報告や報道資料を基に考察を行った.セルロース系原料を用いたバイオエタノール製造や緑藻を用いたバイオディーゼル生産は化石燃料の代替が可能となりうる潜在的生産力を有するが,実用化の為には技術革新のための更なる研究と投資が必要と考えられる.遺伝子組み換え技術を植物や微生物に応用することによりバイオマスの生産や液体燃料への変換効率に関する飛躍的進歩が期待できる.エネルギー安全保障の為に日本には代替エネルギー開発研究に関してこれまでに蓄積してきた豊富な知的財産を有効利用する明確な戦略が求められている.試算によれば,日本国内でのバイオ燃料生産により需要量のかなりの割合に相当するエネルギー資源の自給が可能となる.バイオ技術開発の成果としてのバイオ燃料の実用化が成功すれば,科学者と市民との相互理解を育む格好の機会が齎されることであろう.

キーワードバイオ燃料、バイオマス、バイオテクノロジー、遺伝子組み換え産品、植物

総合型地域スポーツクラブにおけるNPO 法人化の影響について-法人化前後の認識に着目して-

内藤正和

アブストラクト

 近年、総合型地域スポーツクラブは増加傾向にあるが、NPO 法人化を行ったクラブはまだ少ないのが現状である。NPO 法人格を取得するかどうかがそのクラブにとって大きな転換点となることが考えられるが、NPO 法人化が総合型地域スポーツクラブに与える影響について、十分に検討されていない。
 そこで本研究では、NPO 法人化前後で、総合型地域スポーツクラブがNPO 法人化をどのように捉えているか検討することを目的とする。
 本研究が対象としたクラブでは、NPO 法人化による目に見える変化、目に見えない変化を理解し、自分達のクラブにうまく取り込んでいる状況が伺えた。つまりNPO 法人化をクラブがより発展するための手段と捉え、NPO法人化のメリット・デメリットを理解することが重要である。

キーワードcomprehensive community sports club, specified nonprofit corporation, influence

最尤非対称多次元尺度構成法の適用事例-エゴグラム・パターン間の親近度データの分析-

佐部利真吾

アブストラクト

 最尤非対称多次元尺度構成法の適用事例として,単純なエゴグラム・パターン間の親近度データが分析された.エゴグラムにおいてそれぞれ,CP(Critical Parent),NP(Nurturing Parent),A(Adult),FC(Free Child),AC(Adapted Child)の得点が高い5つのタイプを仮定し,各調査対象者は,これらのタイプの中から無作為に割り当てられたⅠとⅡの組み合わせについて,Iのタイプの人がⅡのタイプの人に対してどれほど親しくできると思うか,6段階評定尺度で評定するよう指示された.適用の結果,いくつかの対称性仮説は棄却され,順序尺度を仮定した3次元のOkada & Imaizumi(1987)のモデルが最適モデルとなった.この方法の応用可能性についても考察した.

キーワードasymmetric multidimensional scaling, egogram pattern, maximum likelihood method

糖尿病患者の健康食品・サプリメント摂取状況に関する研究

玉川達雄

アブストラクト

 近年,我が国を含む世界中で糖尿病患者が増加している.これは高齢者が増えたためであって,いわば老化現象の1つである.寿命が延びることは喜ばしいことであるが,同時に老化に伴う内臓疾患や整形外科的疾患に苦しむことになる.このような状況のなかで,通常の医療の限界を感じて他の治療に頼ろうとする人々も少なからず出てくる.その治療の代表格に健康食品・サプリメントがある.本研究では糖尿病患者の健康食品・サプリメントの摂取状況を調査して,問題点について考察する.

キーワード糖尿病、高齢者、健康食品、サプリメント

組織研究における個人差の検討-モデレータとしての従業員要因-

高木浩人、石田正浩

アブストラクト

 本論文でわれわれは,モデレータとしての従業員要因を扱っている最近の組織研究をレビューした.それらの研究では,自己評価,自己概念,感情,性格,志向性,職位,コミットメント,エンベッディッドネス,同一視,役割曖昧性といった多くの従業員要因が重要なモデレータとして検討されていた.研究における発見の実務的な有用性についての含意が議論された.

キーワード調整変数、個人差、従業員

Asymmetric Multidimensional Scaling -1. Introduction

Naohito CHINO

Abstract

The history and scope of asymmetric multidimensional scaling (abbreviated as asymmetric MDS) are briefly discussed. First, the unidimensional sensory scaling in psychophysics is contrasted with the unidimensional psychological scaling in psychometrics. Second, the law of comparative judgment and the law of categorical judgment are introduced, which constitute the basis for asymmetric MDS. Third, several symmetric MDS's which are extensions of the unidimensional scalings and theorems which underpin the symmetric MDS are described. Fourth, asymmetric MDS's which are extensions of the symmetric MDS and a theorem which is a basis for asymmetric MDS are discussed.

Keywordsasymmetric MDS; law of comparative judgment, law of categorical judgment; the Young-Householder theorem; the Chino-Shiraiwa theorem; likelihood ratio test; test for symmetry; Euclidian space; Minkowski space; Hilbelt space; information criteria

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