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第8巻第1号(2016)

退職養護教諭を活用した新規採用養護教諭研修の課題 - 教育委員会の研修担当者対象の調査結果をもとに -

下村淳子・林 典子

【目的】退職養護教諭を活用した新規採用養護教諭研修の現状と課題を明らかにする.
【方法】全国の教育委員会に対してアンケート調査を実施し,新規採用者研修の実施状況を確認した.
【結果】次の点が明らかになった.
 ①新規採用者研修の専門研修は1年間で約57時間行われていたが,自治体によって研修量に差が 
 あった.
 ②退職養護教諭は,平均で3名の新採養護教諭を教えていた.
 ③研修を企画するスタッフが困っていた点は「退職養護教諭を確保すること」と「退職養護教諭へ 
 のサポートが不足すること」だった.
 ④研修を企画するスタッフが期待するテーマは,救急処置に関する内容だった.
【結論】新規採用者研修の課題は,自治体によって研修量に差があることと,退職養護教諭を確保するこ
とが課題だった.今後は研修の実施方法を改善していく必要がある.

【キーワード】養護教諭, 新規採用者研修, 教育委員会

バイオフィードバックによる心拍変動の増大が脳波に及ぼす影響

榊原雅人

本研究はバイオフィードバックによる心拍変動の増大が脳波に及ぼす影響を検討した。大学生14名(男性5 名、女性9 名)が実験に参加したが脳波測定に不備があったため、10 名のデータを分析対象とした(男性4 名、女性6 名)。5 分間の安静状態の測定に続いて、5 分間のバイオフィードバック条件(心拍変動の増大を引き起こす条件)または対照条件(心拍変動の増大を生じない条件)を4 回実施し、これらにおいて心電図と脳波を測定した。他の検討目的のため、これらの条件前後で反応時間課題を実施した。心拍変動の低周波成分のパワーは対照条件では変化しなかったにもかかわらずバイオフィードバック条件では有意に増大した。脳波アルファ波の相対パワー値は対照条件で漸増したがバイオフィードバック条件ではいったん減少した後に元のレベルに復帰した。これらの結果は、心拍変動バイオフィードバックの手続きが正しく実施されていたことを示唆しているが、心拍変動バイオフィードバックにおける緩徐なペース呼吸は参加者にとってやや難しい課題かもしれない。心拍変動バイオフィードバックについての今後の有効な教示のあり方について考察がなされた。

【キーワード】バイオフィードバック、心拍変動、自律神経活動、脳波

制御焦点の場面限定性

三ツ村美沙子・高木浩人

 本レビューでわれわれは,場面限定的な制御焦点という概念の有用性について検討を行った.健康
領域,対人関係領域,養育領域,仕事領域において場面限定的な制御焦点を扱っている研究を概観し
た後,われわれは場面限定的な制御焦点という概念の有用性を指摘した.最後に,今後の研究の方向
性が議論された.

【キーワード】制御焦点,特性的制御焦点,場面限定的制御焦点

誤嚥性肺炎における嚥下造影検査の定量的・定性的解析

野村麻優子・牧野日和・町田祐子・田中誠也・高津 淳・古川博雄・早川統子・辰巳 寛・山本正彦

目的:嚥下造影(VF)検査では,一般的に使用されている定性的解析には評価者間にばらつきが生じやすい.定量的解析を用い,精密に評価し,定性的解析との関連および臨床的有用性について検討した.
 対象と方法:誤嚥性肺炎および誤嚥性肺炎疑いと診断され,VF 検査を必要とした患者9名のVF動画の中で,液体とゼリーの3, 5ml の合計24例を対象とした.定量的解析は,口腔準備期としての口腔期タイプおよび,口腔期から食道期の嚥下動態のうち計16点を計測し,これらから10項目を算出した.定性的解析では,口腔準備期から食道期までの計23 項目を評価した.咀嚼の有無と軟口蓋の下垂が認められた症例も併せて記録した.
 結果:定量的解析の物性間比較では,食道入口部開大時間において,液体にて延長する傾向がみられた(p =0.064).1回の嚥下量においては,有意差は認められなかった.各項目の基準値から外れた症例数は,以下の通りである:食塊の口腔通過時間(液体9例,ゼリー8例),鼻咽腔閉鎖時間(液体4例,ゼリー6例),舌骨拳上時間(液体8例,ゼリー9例),喉頭拳上時間(液体11例,ゼリー12例),気道(喉頭)閉鎖時間(液体6例,ゼリー10例),食道入口部開大時間(液体9例,ゼリー12例),嚥下反射惹起遅延時間(液体4例,ゼリー7例),食塊の咽頭通過時間(液体5例,ゼリー8例).嚥下咽頭期の反応時間は全例で正常であった.定性的解析では,評価点を定量的解析による数値で分割することが困難であった.
 考察:定量的評価では, 10項目の各時間の延長・短縮と相互比較, さらには, 16点の時系列(嚥下運動連鎖パターン)の変化を判定に用いた. 定性的評価とともに, これらの指標の分析によって,誤嚥の risk factors の抽出が可能であった.
 結論:定量的解析は咽頭期の評価項目に優れているが,喉頭侵入を同時に記載する必要がある.定性的解析は口腔準備期および食道期の評価ができることが利点である.定量的解析と定性的解析を併用することで,誤嚥性肺炎を惹起する要因の推測に役立つと考えられる.障害部位の詳細な同定は,リハビリテーション計画の立案と選択に重要である.

【キーワード】嚥下造影,誤嚥性肺炎,Logemann,定量的解析,定性的解析

脂肪細胞機能発現における抗酸化食品因子の役割 <総説>

上野有紀・大澤俊彦
 酸化ストレスの亢進は、種々の生活習慣病の発症・進展に関与することが知られている。肥満では脂肪細胞の肥大化と脂肪細胞数の増加が起こり、炎症・酸化ストレスが亢進し、糖代謝・脂質代謝が抑制される。脂肪細胞はアディポサイトカインと呼ばれる生理活性物質を分泌するが、肥満が発症すると、抗炎症作用・抗糖尿病作用を有するアディポネクチンは低下し、その一方でインスリン抵抗性を惹起するTNF-α、IL-6、MCP-1 等は増加する。
 植物性食品中には抗酸化成分が多数存在しており、これらの物質が肥満由来の酸化ストレスを軽減することにより、脂肪細胞機能が改善する可能性を検討するため、我々は植物由来の色素成分アントシアニンに着目した。主要なアントシアニンであるシアニジン(cyanidin; Cy)とその配糖体であるシアニジン-3 -O -D- グルコシド(cyanidin 3-O -D-glucoside; C3G)をラット単離脂肪細胞とヒト脂肪細胞に添加して培養することにより、脂肪細胞の機能発現に重要とされるアディポサイトカインや脂質代謝に関連する遺伝子発現に与える影響を、DNA マイクロアレイ法等により検討した。シアニジンは脂肪細胞において、アディポサイトカインであるアディポネクチンの発現を上昇させ、IL-6、plasminogen activator inhibitor1( PAI-1) の発現を低下する作用を有していることが明らかとなった。肥満状態の肥大化した脂肪細胞ではアディポネクチンは低下し、IL-6、PAI-1 はいずれも上昇することから、シアニジンは脂肪細胞に対して、アディポサイトカインの発現を改善する可能性が考えられた。今後、抗酸化食品因子の脂肪細胞機能および肥満への作用機序のさらなる解明が期待される。

【キーワード】food factor, adipocyte, metabolic syndrome, oxidative stress, adipocytokine, inflammation,
antioxidant

家庭の非常食備蓄状況―自己申告量と実際の備蓄量との比較―

森 圭子
【目的】 2011年3 月に東日本大震災が起きた。災害時のために非常食を備えることに対する関心は高まっている。しかし、家庭の備蓄調査は、自己申告調査に留まっていることから、自己申告量と実際の家庭の備蓄量から差異を比較検討した。
【方法】対象は、2012年に災害時のための家庭の非常食備蓄状況について自記式質問紙に回答した333世帯である。実際の備蓄量は、備蓄している食品と数量から世帯あたりの合計エネルギー量を算出し、世帯員が1 日に必要なエネルギー量を日本人の食事摂取基準2015年版より算出した。解析はSPSSVer.22を用い、Kruskal-Wallis 検定, Wilcoxon 符号付き順位検定により、自己申告による備蓄量と実際の備蓄量との比較検討を行った。
【結果】非常食の備蓄がある世帯は、65.2%であった。自己申告による非常食備蓄量は、2・3 日分とした者が44.6% と最も多く、それ以上は18.7%に過ぎなかった。実際の非常食備蓄量は自己申告による備蓄量より統計的に有意に少なかった(p<0.01)。また、自己申告および実際の備蓄量は年齢が若いほど備蓄量が少なかった(p<0.01,p<0.05)。
【結論】家庭での備蓄が十分でないことが示唆された。大地震が将来起こる可能性が高いことから、家庭での備蓄をすべての世帯で確実に進める必要がある。備蓄を進めるために備蓄についての項目を「食生活指針」に加える必要がある。

【キーワード】災害、非常食、家庭の備蓄

総合型地域スポーツクラブの現状 - 新潟県を事例として -

内藤正和・田中宏和
 本研究は、新潟県を対象とし、総合型地域スポーツクラブに関してどのような議論が都道府県議会
において展開されてきたのかを明らかにすることを目的とする。
 その結果、以下の事が明らかになった。
1) クラブ育成率は80.8%となっているものの、クラブ育成率の地域差が見られるようになっている。 一方、クラブ育成率の上昇とともに様々な課題も浮き彫りとなった。特に10 年以上解決されてい ない課題がある。
2) 新潟県のクラブ育成率は76.7%となっている。これは全国で14番目に低い数値となっている。
3) 総合型地域スポーツクラブに関する主な論点は、「設置の状況について」、「県の支援について」、「総合型地域スポーツクラブにおける競技力の向上」、「学校部活動との連携」の4点であり、特に設置の
状況についてと県の支援についての2点に関する議論に大半の時間が費やされている。
 このように総合型地域スポーツクラブは、「質的な充実」も重視するとともに、持続可能な「社会的な仕組み」として定着させる取り組みの必要が求められるようになっているもののその議論は端を発したばかりの状況であった。
 
【キーワード】総合型地域スポーツクラブ、都道府県議会、新潟県

伝統芸能の伝承に関する一考察 - 東ジャワのREYOG PONOROGO を事例として -

内藤正和・松本真咲 
 伝統芸能は近年のグローバル化、ライフスタイルや文化的価値観の変化に伴い、儀式の簡素化、簡略化などが余儀なくされ、存続の危機に直面しているものも多い。そこで本研究は、ジャワ島東ジャワ州ポノロゴ県が発祥の民俗芸能REYOG PONOROGO を事例として、民俗舞踊の伝承のあり方を考察する。
 歴史的、文化的な伝統芸能を維持するには、多角的な支援が必要不可欠である。REYOGPONOROGO は現行行政の施策による観光活性化、地域共同体の協力的な活動、私的公的援助による資金の調達などへと向かっている。一方、自分たちの歴史や習俗を学ぶことによって誇りや自信を取り戻し、地域住民同士の絆を深めている。

【キーワード】伝統芸能、伝承、ポノロゴ

マラソン記録を読む ~高齢者マラソンの生理学的意義~

齊藤 滿
 本研究は高齢者の最大酸素摂取量の加齢にともなう低下を抑制する制限因子の新しい考え方について、マラソンの加齢変化から検討した。マラソン記録は20歳から90歳までの世界記録(W-G)、日本ランキング1 位( J-G)の合計141 名を対象とした。最大酸素摂取量はこれまでに報告されているマラソンタイムに及ぼす様々の生理学的数値を取り入れ、マラソン記録から推定した。まず、エリート持久ランナーの走速度-酸素摂取量関係式を用いて走行時の酸素摂取量を推定し、続いて、最大酸素摂取量に対する比率で表される乳酸性閾値を用い最大酸素摂取量を算出した。推定最大酸素摂取量の最大値はW-G が30歳の80 ml/kg/ 分、J-G が30歳の78 ml/kg/ 分であった。その後、最大酸素摂取量は年齢とともに90歳まで曲線的に低下した。80歳代ランナーの最大酸素摂取量は26~40ml/kg/ 分であり、これまでに報告されている35 ~ 42 ml/kg/ 分にほぼ匹敵する値であった。20 歳~50歳までの最大酸素摂取量の低下率は緩やかであるが、その後は曲線的に減少した。しかしながら、中年期から高年期の最大酸素摂取量低下速度はこれまでに報告されている一般人の低下速度に比べて低値を示した。本解析結果から、仮に50 歳頃からいつ始めたとしても、一生涯マラソンを続けるこ
とで、その後の最大酸素摂取量の低下速度を不活動な人に比べて抑えることが可能である。

【キーワード】 最大酸素摂取量、マラソン、心肺体力、加齢

風景構成法における人物と自我同一性の関連

作元志穂・齋藤 眞
 本研究では,自己概念の変化が起こる青年期の課題である自我同一性の確立と風景構成法(LMT)との関連について,描画空間の中への自己像の位置づけ・LMT における人物の描かれ方・LMT 作品の全体的な印象と人物の印象という3つの視点から仮説を立て,その特徴が LMT の人物にどのように表れるかをつかむための検討を行った. 仮説は,1)自我同一性が確立している人は未確立の人より,「風景の中に自分がいる」と回答する人が多い,2)自我同一性が確立している人は人物を具体的に描く,3)作品全体と人物がともによい印象を与えるLMT 作品を描く人は,自我同一性が確立している,であった.
 調査1で,大学生を対象にLMT と自我同一性の特徴を捉える2種の質問紙を用いて,その特徴を検討した.調査2では,LMT 作品の印象調査を行った.その結果,仮説2),3)は支持されたが,仮説1)は支持されなかった.自我同一性確立傾向群(確立群)では,人物が通常の身体を伴った形態で具体的に大きくはっきりと描かれ,LMT 作品全体の印象として,まとまりや充実感を与えるという特徴が示された.「私」が確立されているため,自己を象徴する人物を明確に表現することができ,内的世界へ統合されたのと考えられる.自我同一性混乱傾向群(混乱群)では,記号化・省略された人物に彩色をするという表現が目立った.自我同一性確立中間群(中間群)でも,記号化・省略がみられたが,白抜きのままで描かれているものが多かった.このことから,「塗る」という点で双方の描く人物には質的な違いがあり,混乱群の人物には形がはっきりしないが彩色を加えるという方法で,自己のズレや葛藤が表現されたのだと考えられた.
 仮説1)に関わっては,同一性確立の度合いに関係なくほとんどの調査協力者が「風景の中には自分はいない」と回答していたが,その風景に自分は「関与している」と答える者が多かった。先行研究でも示唆されているように,世界に自分を位置づけてゆくという心理学的課題に対して青年がどのように向き合おうとしているか,その関与の仕方とそこでの自我の強さを査定するのに重要な手がかりをもたらす可能性が推測された.

【キーワード】 風景構成法(LMT),風景の中の人物像,風景の中の自己,同一性混乱尺度,青年期

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