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第9巻第1号 (2017)

切干大根の米飯摂取後の血糖上昇抑制効果 ~切干大根 生・煮食の比較と食べる順番の検討~

末田香里・浅野 藍・加藤幸巳・門脇夏美・佐藤祥子・長谷川里沙・酒井映子

【目的】食物繊維は、血糖上昇抑制効果が知られている。そこで、食物繊維を豊富に含む切干大根で、調理法による違いについて検討した。また、「野菜を先に食べると良い」と言われていることから、切干大根の食べる順番の検討を行った。
【方法】被験者:21 ~22歳の女子大学生10 名(BMI: 20.5 ± 1.4kg/㎡Mean±SD))。基準食・切干大根検査食:基準食は米飯150g を用い、飲み物はお茶200ml とした。切干大根食(生・煮)は、切干大根15g+だし醤油5g と米飯とし、炭水化物量が50g になるよう米飯量を調節した。切干大根の食べる順番の検討:切干大根を米飯の15分前摂取(略15分前食)、切干大根と米飯同時摂取(略同時食)、切干大根を米飯摂取15 分後に摂取(略15分後食)で血糖上昇に影響があるかどうかを検討した。測定方法:血糖値は自己血糖測定器(SMBG)グルテストNeo スーパー(三和化学研究所)を用い、測定した。血糖値を基準食と同時食、15 分後食では米飯摂取前(0)、15、30、45、60、90、120分後の計7回、15分前食では米飯摂取の15 分前(-15)を加えた計8回測定した。それらの値から血糖上昇曲線下面積(血糖AUC:Area Under the Curve)を算出した。統計処理:データはMEAN ± SD で示し、血糖値、血糖AUC はpaired t-test で比較し、有意差は5% 以下とした。
【結果と考察】1)切干大根生・煮食の比較:基準食の血糖値と比較した結果、生食では摂取後45分、60分で低下(p<0.01)し、煮食では、摂取後60 分で低下した(p<0.01)。血糖AUC では、基準食と比較して、生食で低下した(p<0.01)。煮食で効果が見られなかったのは、この水溶性食物繊維(ペクチン)が加熱により、分解され可溶化し、摂取する量が少なくなったためであると推察された。2)切干大根生食の食べる順序の検討:基準食と比較し、15 分前食では0 分、15 分で血糖値が上昇し(p<0.05)、また15分前食と同時食で、45分、60分で低下した(いずれもp <0.01)。また15分前と比較し、同時食が15 分で低下した(p<0.001)。血糖AUC では、基準食と比較し、15分前食と同時食で低値(それぞれ p<0.05、p<0.01)を示した。【結語】切干大根生食で米飯の15分前および同時に摂取することで、血糖上昇抑制効果がみられた。大根中の食物繊維によりが胃排泄ならびに腸管からの吸収が緩やかになったためであろう。

【キーワード】食後血糖、米飯、切干大根、食物繊維

園児の食育行動目標としての箸使いに関連する要因

北川千加良・渡邉智之・森岡亜有・末田香里・酒井映子

【目的】園児の箸使いと家庭環境,生活習慣,食意識との関連を明らかにし,箸使いから園児の食育
のすすめ方を検討した.
【方法】調査対象は愛知県T 市の公立・私立を含む幼稚園4園,保育園8園の計12園に通う5歳児(幼
稚園児206名,保育園児280名)とその保護者に対するアンケート調査の両データが揃うもののうち,
箸使いの回答不備や欠損データを除く404 名(回収率94.7%,有効回答率83.1%)とした.園児の
箸使いは観察法および面接聞き取り法,保護者は留め置き法を用いた.調査項目は園児では食習慣な
どの18 項目,保護者には食意識などの44 項目を取り上げた.なお,同地区で平成25 年同時期に実
施した5歳児親子の食育調査との比較も行った.
【結果および考察】1.正しい箸使いができる園児は少ないことが確かめられた.2.箸を正しく持
てる園児の保護者では,こどもに箸の持ち方を教え,自分のこどもが箸を正しく持てることを認識し
ており,食事の時間を楽しみ,食事を残さないようにするなど,生活習慣の基礎づくりへの保護者の
介入を認めた.3.箸を正しく持てる保護者では,家族の絆を大切にし,感謝の気持ちを育成するな
ど,こころの育みを重視するとともに,園児への箸使い教育や食事を残さないで食べるといった望ま
しい食習慣づくりも実践されていた.
【結論】園児の箸使いの食育は,家庭における望ましい食習慣の形成に寄与できることが確かめられた.
正しく箸が持てる5歳児は30%弱と少ない結果を踏まえて,箸使いの意義と役割を学ぶ親子揃って
の箸使い教室や箸コミュニティ組織づくりなど,多様な教育機会と継続的な実践活動の必要性が示唆
された.

【キーワード:食育行動目標,箸使い,家庭環境,生活習慣,食意識】

非アルツハイマー型認知症における書字障害に関する検討 -前頭側頭型認知症を中心に-

下村 唯・辰巳 寛・安井敬三・山本正彦

 非アルツハイマー型認知症のうち,前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia:FTD)は主と
して前頭葉や側頭葉を中心とする神経変性疾患である.FTD には書字障害が指摘されているが,書
字障害の報告は少ない.本研究では,FTD 疑いと診断された症例に出現した漢字・仮名の書字障害
を各種神経心理学的検査およびSALA 失語症検査により,認知神経心理学的モデルに基づき詳細に
検討した.
 臨床的には発症がやや高齢である以外は,FTD の診断基準を満たしていた.MRI 画像上は全体的
な脳萎縮があり,海馬の萎縮,シルビウス溝の開大がみられたが,VSRAD では海馬に選択性はなく,
灰白質容積低下レベルは前頭葉にて顕著であった.SPECT では頭頂葉(右優位),前頭葉(左優位)
の血流低下を認めた.Amyloid PET では脳に異常なアミロイド沈着は指摘できなかった.
 書字の誤りを漢字・仮名別に検討すると,漢字では形態性錯書,文字新作,形態の崩れ,保続に分
類され,最も多いのは想起困難であった.仮名では置換,付加,想起困難,文字新作,保続,形態の
崩れがみられた.PALPA 上では,文字出力レキシコン(漢字>仮名)および音韻- 文字変換(仮名)
に機能不全があると考えられる.
 これらの結果から、書字障害が左前頭葉の機能低下と深く関連し,側頭葉が相対的に温存された点
が非失語性となった可能性が高い.非失行性であり,空間性,さらには前頭葉機能低下に認められる
dysexecutive 書字障害が示唆された.

【キーワード】非アルツハイマー型認知症、前頭側頭型認知症、書字障害、遂行機能障害

長生きの方法

玉川達雄・北村米子

 長生きの方法について考察した.まず,栄養価の高い動物性蛋白・脂質の摂取により,感染症に対する免疫力を付けることである.次に,禁煙,および可能ならば禁酒をして,過剰な塩分摂取を控える.屋外では紫外線を避けるためにサングラスと,出来るだけ全身を覆う衣類を着用する.運動では,柔軟体操や1日1万歩の歩行を行う.リクリエーションでは,屋外の雷雨などの異常気象に迅速に対応し,流れのある河川での水泳を避ける.暑熱環境で発生する熱中症に対しては,エアコンなどで身体を冷やす必要がある.EBM(証拠に基づく医療)によると,検診も薬も,あまり効果が期待できない.健康的な生活習慣を身につけて病気を予防することが最も重要である.

【キーワード】長生き,栄養,レクリエーション,証拠に基づく医療,生活習慣

対人的公正が大学コミットメントに及ぼす影響 ―性格特性の調整効果―

三ツ村美沙子・高木浩人

 本研究の目的は,対人的公正と大学コミットメントの関係に対するBig Five性格特性の調整効果を
検討することであった.我々は私立大学の学生263名に対して調査を実施した.階層的重回帰分析なら
びに単純傾斜分析の結果は,調和性が対人的公正と大学コミットメントの愛着要素の関係を強めるこ
とを示していた.今後の研究への含意が議論された.

【キーワード】対人的公正,大学コミットメント,Big Five

運動時の交感神経調節 -Microneurography による観察-

齊藤 滿

 交感神経活動は運動時に高まり、血圧、心拍数の増加と末梢血管収縮の調節に寄与する。この調節のしくみについては、未だ不明な点が少なくない。運動時の交感神経活動亢進には二つの経路が関係する。一つは、セントラルコマンドであり、大脳皮質運動中枢で始まる運動の意志が交感神経活動を高める最初の活動である。この活動は運動神経を刺激し筋活動を引き起こすのと並列に交感神経活動を高める。二つは、筋活動にともなう代謝産物に反応する筋代謝受容器と機械刺激に反応する機械受容器からの神経活動により交感神経活動を高める経路である。現在、微小神経電図法により骨格筋支配の交感神経活動(MSNA)をヒト覚醒下で直接観察することができるようになり、運動時の交感神経活動調節に関する知見が多数蓄積されてきている。運動時のMSNA 反応には、静的運動、動的運動、上肢や下肢運動、運動形態、運動強度、運動時間、運動姿勢など多数の要因が関わり、これらの多くの因子が統合された結果できまる。静的ハンドグリップ運動では、セントラルコマンドと筋代謝受容器反射がMSNA を強力に高める。しかしながら、運動姿勢が変わると重力の影響で、MSNA の反応性は大きく変わる。動的運動では上肢、下肢に関わらず運動強度に比例してMSNA は疲労困憊まで高まる。しかし、起座位自転車運動の場合、運動強度が最大酸素摂取量の40% 以下では安静時より
低下する。この反応は筋活動にともなう筋ポンプの促進で静脈還流が高まり心拍出量が増え、心肺圧受容器が刺激されるためである。最大運動に近い激運動ではセントラルコマンドがMSNA を高める最も大きな要因である。さらにセントラルコマンドは運動維持のために働き、間接的に活動筋代謝受容器を刺激し続ける。これに対し、小筋群のダイナミック運動では、MSNA 反応はセントラルコマンドより代謝受容器反射の関与が大きい。運動時のMSNA は静的運動、ダイナミック運動に関わらず、多数の要因が関わり調節される。これらの多く要因が交感神経調節にどのように関わるのか、研究成果の蓄積が比較的少ない有酸素運動での発展が望まれる。

【キーワード】自律神経、筋交感神経活動、静的運動、動的運動、筋代謝受容器、セントラルコマンド、動脈圧反射

3オドボール課題における不快情動語の注意の捕捉-ERP を用いた注意バイアスの評価-

石田光男・赤嶺亜紀・金田宗久・榊原雅人

 本研究は,事象関連電位(event-related potential; ERP)を用いて,脅威情報に対する注意バイアス(感受性)の評価を試みた.我々は小さい菱形の標準刺激(66.7%),大きい菱形の標的刺激(16.7%),漢字による逸脱単語刺激(16.7%)から構成される3オドボール課題を使用した.さらに,逸脱単語の半分は不快情動語(破壊,悲鳴など)であり,他の半分は中性語(構造, 範囲など)であった.参加者(2名)には標的刺激の出現後にボタンを押し,その他の刺激は無視するよう教示した.脳波は3 部位(Fz,Cz,Pz)から記録し,各刺激オンセット時を基点として加算平均した.その結果,単語の逸脱刺激に対するP3波はPz よりもCz で大きく,また中性語に比べ,不快語に対するP3の振幅が増大していた.以上の結果は,単語刺激に対して増大した振幅はdeviant P3であるとみなされ,この振幅増大は前注意的過程における脅威情報に対する資源配分の違いを反映していることを示唆している.本研究は脅威情報に対する注意バイアスの評価においてERP を用いることの有用性について議論した.

【キーワード】attentional bias; negative emotional word; three oddball task; ERP; deviant P3

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