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第6巻第1号 (2014)

このページの目次


心身科学第6巻第1号 目次


マウスにおけるビタミンA 欠乏とミッドカインの発現変化についての研究

心身科学 第6 巻第1 号(1 -8 )(2014)
坂本祥子 市原啓子 望月美佳 村松壽子

アブストラクト

 ミッドカインは,胚性腫瘍細胞(EC 細胞)をレチノイン酸(ビタミンA 酸)で分化誘導した際に
発現される遺伝子の産物として見出された.マウスおよびヒトのミッドカイン遺伝子の上流域には
レチノイン酸受容体の機能的結合部位が存在することが解明されている.ミッドカインとプレイオト
ロフィンはファミリーを形成する.このミッドカインとプレイオトロフィンをともに欠損させたダブ
ルノックアウト(DKO)マウスは,産まれ難い,成長不良,雌の生殖能力の著しい低下,高度な難
聴などの異常が認められた.ビタミンA の欠乏症では,成長不良,生殖,視覚,聴覚に異常が現れ
ることが知られている.このようにビタミンA 欠乏とDKO マウスの症状には多くの類似点が認めら
れる.これらのことから,ビタミンA がミッドカインの発現に強く関わっていることが示唆された.
そこで今回,ビタミンA 欠乏マウスの脳と腎臓におけるミッドカインの発現量を調べた.
 雌のICR マウスを用いてコントロール食群とビタミンA 欠乏食群に分けて飼育した.ビタミン
A の量は,肝臓のビタミンA を抽出し,HPLC で測定した.ミッドカインの発現量は脳と腎臓から
RNA を抽出し,リアルタイムPCR 法で解析した.その結果,ビタミンA 欠乏食で飼育したマウスは,
飼育開始8 ヶ月において肝臓のビタミンA 量は検出限界以下にまで減少していた.これらのマウスは,
眼の網膜の組織染色等により,ビタミンA 欠乏状態に陥っていたことが判明した.しかし,ミッド
カインの発現量は,コントロール食群に比べて,腎臓では約1 / 2 に低下したものの,脳では差は認め
られなかった.このことから,腎臓でのミッドカインの発現には,一部ビタミンA が関与しているが,
脳におけるミッドカインの発現にはビタミンA は関与していないことが判明した.

他者内心制約が解除される条件:調査的研究

心身科学 第6 巻第1 号(9-13 )(2014)
岡本真一郎

アブストラクト

 他者内心を二三人称直接形で表現すること(例:太郎は寒いよ)は,一般には不自然とされる(他
者内心表現の制約).ただし,状況や先行語句などの形式によっては,この制約が緩和,解除される
可能性がある.本研究ではそうした場合を検討するための調査を報告する.67 名の大学生を対象に,
6 つの状況に関して先行句,修飾句の影響を検討した.三人称の場合,先行語句,修飾語句の一部で
制約が緩和,解除されることが示された.最後にミス・コミュニケーションとの関連について指摘が
なされる.

維持期リハビリテーションにおける言語聴覚士の役割──老健での看取りの経験から

心身科学 第6 巻第1 号(15-22)(2014)
甘利秋月 辰巳 寛 長縄敏毅 長縄伸幸 山本正彦

アブストラクト

 進行性疾患や終末期がん患者においては,病態の進行やがんの再発・転移などによりADL に大き
な制限が生じやすく著しいQOL の低下を招く.特に,摂食・嚥下機能障害やコミュニケーション障
害が生じた場合は,言語聴覚士は重要なリハビリテーションの一翼を担う.
 今回,我々は転移性脳腫瘍に伴うてんかん発作によりADL が階段状に増悪した運動性失語症の一
例を経験した.継続的な支援サービスにおいて,刻一刻と変化する病態に冷静かつ機敏に対応し,適
宜患者や家族のニードの確認,リハビリテーション・プランの柔軟な変更,心理面への配慮,環境調
整などを行うことで,患者のリハビリ意欲の再獲得やADL の一部改善に奏功した.ADL が徐々に悪
化する終末期ケアにおいて,言語聴覚士は専門的な機能訓練のみならず,患者や家族のニードに対し
て絶えず最善の目標を設定し,多職種間の緊密な連携を図り,患者と家族が最高のQOL を得られる
ように努力することの重要性を再確認した.

言語治療に難渋した機能性構音障害による口蓋化構音に関する研究 ──音声学的および音響学的検討

心身科学 第6 巻第1 号(23-36 )(2014)
高津 淳 早川統子 田中誠也 浜田広幸 木村 航 牧野日和 古川博雄 杉山裕美 辰巳 寛 夏目長門 山本正彦

アブストラクト

機能性構音障害における構音の誤りは,置換や省略などの構音発達の途上でみられることが多く,
特異な構音操作による誤り(異常構音)も認められるが,その発生メカニズムは明らかになっていない.
近年では,機能性構音障害の原因の一つに音韻処理能力の問題(音韻障害)が指摘されており,難治
例の背景には音韻障害が存在する可能性がある.本研究では,口蓋化構音(PA)を呈する機能性構
音障害児において,言語治療に難渋した経過中に言語聴覚士による聴覚判定と客観的指標として有用
な音響分析を実施した.
1 . 聴覚判定における単語復唱課題では,口蓋化構音,置換,歪みを含めた誤り音は集中的に構音訓
練を実施した期間で減少を示した.しかし,訓練期間の延長に伴い,誤り音の出現率は再び増加
した.口蓋化構音について,歯茎鼻音/n/ は歯茎破裂音/t/,/d/ に比べて改善が困難であった.後
続母音において,口蓋化構音は母音/a/,/u/ に出現率が高く,置換では母音/i/,/e/ が高い結果で
あった.目標音の語音位置別における誤り音の出現率の差は認められなかったが,吃音症状出現
時は語頭での誤り音が有意に減少した.
2 . 音響分析では,歯茎破裂音/t/ の口蓋化構音が軟口蓋破裂音/k/ に類似したピーク周波数を示し
た.吃音症状出現時,音節の繰り返しや発話成功部分の歯茎破裂音/t/ にはspike fill が認められず,
明瞭な判定が困難であった.
 これらの結果から,本症例では構音と音韻レベルの問題が併存する可能性が示唆され,音声学的お
よび音韻学的側面より考察した.構音レベルの問題では,子音から母音への舌運動範囲の狭小化が構
音症状を誘発する要因と推測される.音韻レベルの問題では,構音への意図性の向上が構音症状の改
善に重要であり,誤り音と正音の聴覚判別の難易度,構音時の舌緊張程度が関与する.構音の意図性
の向上は言語機能への負荷となり,吃音症状が悪化する場合がある.音響分析により,吃音症状出現
時の発話では,構音点は正常となるが,構音方法は不完全であった.機能性構音障害による異常構音
の報告は少なく,音韻障害,吃音に関連した機能性高次脳機能障害の報告も乏しい.機能性構音障害
の難治例には構音のレベル以外の問題が存在し,音韻レベルへの検討が必要である.

在宅失語症患者の家族介護者に対する教育的介入効果──予備研究報告

心身科学 第6 巻第1 号(37-44)(2014)
辰巳 寛 田中誠也 杉山裕美 高津 淳 浜田広幸 木村 航 山本正彦

アブストラクト

 特有のコミュニケーション障害を呈する失語症患者をケアする家族介護者の心理社会的負担は大き
い.本研究の目的は,失語症患者を支える家族を対象に,失語症ケアに関する教育的介入を行うこと
で,失語症患者とのコミュニケーションにおける家族の自己効力感や介護負担感,精神的健康に及ぼ
す効果を確認することである.今回の予備研究では,11 組の失語症患者の家族に対して,失語症に関
する情報提供やコミュニケーション障害への対処法など短期の教育的介入を行い,複数の自記式質問
紙(コミュニケーション自己効力感尺度:CSES,コミュニケーション介護負担感尺度:COM-B,情
緒・気分評価:GDS-15)を用いて評価を行った.その結果,CSES 総得点と下位項目の「会話環境へ
の配慮」に関する自己効力感に有意な改善を確認したが,COM-B やGDS-15 には著変を認めなかった.
教育的介入効果の判定には,家族の個別性を配慮した上で,長期間にわたる無作為化比較研究による
検証が必要である.

視床病変による健忘・作話症状の経時的変化と機能解剖学的解析に関する研究

心身科学 第6 巻第1 号(45-53)(2014)
浜田広幸 辰巳 寛 木村 航 高津 淳 田中誠也 杉山裕美 早川統子 牧野日和 山本正彦

アブストラクト

 左視床の一側性限局性梗塞によりコルサコフ症候群を呈した症例に対して,健忘と作話症状の経時
的変化ならびに機能解剖学的分析を行った.症例は,全般的知能や即時記憶は保存されていた一方,
逆向性健忘と前向性健忘,ならびに作話を認めた.頭部MRI にて左視床前核と背内側核を中心とし
た前内側部に梗塞巣を確認した.前向性健忘は言語性および視覚性記銘力がともに顕著に低下し,発
症3 年が経過した時点でも日常生活に支障を及ぼす健忘症状が残存していた.作話は発症当初には
当惑作話が顕著に観察されたが,発症後約1 カ月の時点で作話症状はほぼ消退した.Schaltenbrand・
Wahren 脳アトラスを用いた機能解剖学的解析では,視床前核の一部と乳頭体視床路,背内側核の
一部に病変部位が含まれていた.本症例が呈した長期に及ぶ持続性かつ重度の健忘症状の発現には
Papez 回路とその周辺の辺縁系の損傷が重要である可能性が示唆された.

健常大学生における豆腐,豆乳の血糖上昇抑制効果──摂取タイミングの検討

心身科学 第6 巻第1 号(55-60)(2014)
末田香里 宇野智子 酒井映子 佐藤祐造

アブストラクト

【目的】
 大豆製品の豆乳・豆腐について,米飯と同時,米飯摂取15 分前および15 分後に摂取した際の血糖
上昇抑制効果に差異があるか,検討した.
【方法】
 被験者:健常な21 ~ 22 歳の本学学生9 名(男子学生4 名,女子学生5 名)とした.体格指数は,
21.9±3.4(Mean±SD)であった.基準食・検査食:基準食は米飯150g +お茶200ml,検査食1 )豆
乳食は豆乳400ml +米飯115g +茶200ml,検査食2 )豆腐食は豆腐400g +米飯101g +お茶200ml を
摂取した.炭水化物の量が50g となるように米飯の量を調節した.
 プロトコール:豆乳は米飯摂取の15 分前・後に摂取し,豆腐は,米飯摂取の15 分前・後,米飯と
同時摂取を検討した.実験はcrossover で,8:45 ~11:00 の間で行った.
 血糖値測定は,米飯摂取15 分前,0(米飯摂取時),15,30,45,60,90,120 分の計8 回測定した.
【結果および考察】
 豆乳:米飯摂取15 分前および15 分後に豆乳を摂取した時は,基準食と比較して,米飯摂取後の血
糖上昇は抑制された.豆乳15 分前食・豆乳15 分後食の血糖上昇曲線下面積(AUC)に差はなかった.
豆乳を米飯摂取前・後に摂取しても,米飯摂取後の血糖上昇抑制効果に差はなかった.豆腐:基準食
と比較して,豆腐15 分前食,豆腐同時食および豆腐15 分後の食後血糖上昇は抑制された.豆腐摂取
時刻の異なる3 群を比較すると,豆腐15 分前食血糖AUC は,豆腐同時血糖AUC よりも小さかった.
豆腐を先に食べ,その後に米飯を食べると,米飯による食後血糖上昇抑制効果が顕著であった.
 豆乳食よりも豆腐食のほうが,食後血糖上昇抑制効果が大きかった.機序としては,豆腐に含まれ
る食物繊維,特に不溶性食物繊維が炭水化物の吸収を緩やかにしたと示唆された.

非感染性疾患が世界中で増加しているのは問題か

心身科学 第6 巻第1 号(61-68)(2014)
玉川達雄

アブストラクト

 WHO の報告によると,2008 年の世界の死亡は5700 万人であり,その63%の3600 万人は非感染性疾患(noncommunicable diseases, NCD) であった.また,「NCD が低~中等度の収入の人々を最も苦しめている.NCD が伝染病のように増えてきた.」とも述べている.そのような危機的状況に世界が陥っているのかどうか検討した.世界全体の寿命は低所得国から高所得国まで同程度に伸びており,感染症など早世につながる疾患が減少した結果であった.むしろ,世界は良い方向に向かっているが,健康格差は縮まっていない.

学生アルバイトにおける職務特性とワーク・モチベーションとの関連  ──成長欲求および制御焦点の調整効果の検討

心身科学 第6 巻第1 号(69-77)(2014)
三ツ村美沙子 高木浩人

アブストラクト

本研究の目的は学生アルバイトにおける職務特性とワーク・モチベーションとの関連について検討
することであった.さらに,成長欲求と制御焦点がこの関連に対して調整変数としての効果をもつか
についても検討した.重回帰分析の結果,ワーク・モチベーションに対して単調性が負,自律性とフ
ィードバックが正の関連を示していた.調整効果については,成長欲求と予防焦点が,有意ではない
ものの,フィードバックとワーク・モチベーションの関係を調整する傾向が見られた.今後の研究へ
の含意が議論された.

住民の望む地域生活に対する意識について  ──高齢社会に望む生活実現と医療福祉サービスの在り方

心身科学 第6 巻第1 号(79-87)(2014)
城戸裕子 小佐々典靖

アブストラクト

 本研究は信越地域のA 市において,日常生活の状況,生活の満足度,将来の住まいに対する意向,
地域での支えあい,生きがいなどの意識を把握することから,高齢になって望む地域での生活の現状
と課題を明らかにすることを目的に調査を行った.
 結果,年齢を問わず誰もが「住み慣れた現在の住まいでの生活を希望する傾向が強く,将来的に医
療や介護が必要になっても同様に希望していることが明らかとなった.また,調査地域での地域住民
が最も地域で重点をおくべき項目は「社会保障制度の充実」,「老後の安定した収入」,「交通移動手段」
であり,最も地域で不足している項目は「交通手段」,「住宅の整備」,「専門職の育成」であるという
ことが明らかとなった.また,地域住民は身近なコミュニティの形成の必要性を住民自らが認識して
いることも明らかとなった.
 今後は,住み慣れた環境での生活の実現のための地域づくりを住民一人一人が,ソーシャルインク
ルージョンとして確立できれば,地域での暮らしを継続することが実現することが示唆された.

青年期のソーシャル・サポート利用について(3 )──信頼感との関連から

心身科学 第6 巻第1 号(89-98)(2014)
八田純子

アブストラクト

 本研究では,信頼感,レジリエンシーおよびソーシャル・サポートの活用のあり方から総合的に青
年期の適応について検討した.大学生155 名を対象とした質問紙調査を行った結果,信頼感とレジリ
エンシーとの間には密接な関連があり,またコーピングにも部分的な関連が見出された.それらより,
青年期の適応を向上する上では,人間関係に過度な期待をして他者に頼りすぎることなく,部分的に
は他者の援助を受けながらも,最終的には自らの力で解決を図ろうとする姿勢と実行力を備えること
が重要だと思われた.

児童の肥満および痩身の実態と生活習慣との関連

心身科学 第6 巻第1 号(99-108)(2014)
酒井映子 森岡亜有 内藤正和 末田香里 佐藤祐造

アブストラクト

【目的】 肥満傾向児や痩身傾向児の栄養教育に資することを目的として,2 年生から4 年生までの身長・体重増加量と生活習慣との関連性について検討した.
【方法】 対象はA 県T 市全5 小学校の2 年生494 名の内4 年生までのデータが得られた484 名(男262名,女222 名).調査内容は平成22 年~24 年4 月に行った3 年次の身体測定結果および平成22 年6 月中旬に実施した集合調査法による自記式生活習慣質問紙調査52 項目.体型の分析には身長別標準体重による肥満度の判定を行い,-20%以下の痩身傾向,普通,+20%以上の肥満傾向の3 分類について,身長・体重,生活習慣等との関連を検討した.
【結果と考察】 1 .肥満傾向児は男児2 年時の15名(5.6 %)から4 年時21名(8.0 %),女児2 年時10名(4.4 %)から4 年時20 名(9.0 %),痩身傾向児は男児3 年時2 名(0.8 %),4 年時5 名(1.9 %),女児3 年時1 名(0.4 %),4 年時2 名(0.9 %)と学年進行とともに高率となっていた.
2 .肥満傾向児は男女ともに身長の伸びに差はなかったが,体重の増加量の平均値は肥満群が有意に多くなっていた(P= 0.000).
3 .体型と2 年生時の生活習慣との関連では,肥満傾向群は普通群と比較してオッズ比が男児では給食をゆっくり食べる0.36 倍(P=0.049),両方の歯で噛む0.32 倍(p=0.024),甘いもの好き2.36 倍(P= 0.093),女児では室内遊び3.75 倍(p=0.029),親の歯磨きチェック無3.15 倍(P=0.048)などの特徴があげられた.
【結論】 肥満傾向児は学年が上がるとともに肥満度がさらに高くなる傾向にあることから,肥満予防
教育は低学年における生活習慣の見直しが重要となることが示唆された.

増加しない野菜摂取量の増加の検討(2 報)  ──大規模地産地消施設消費者とスーパーマーケット消費者の比較

心身科学 第6 巻第1 号(109-118)(2014)
森圭子

アブストラクト

【背景と目的】:わが国では,2013 年より第4 次国民健康づくり運動「健康日本21(第2 次)」が進められている.目的の達成のためには生活習慣の改善が重要であり,野菜については健康日本21 と同様,350g/day を目標としている.平成22 年に公表された47 都道府県別野菜摂取量ランキングでは,愛知県は男性35 位,女性33 位で,全国平均よりいずれも低かった.
 本研究の目的は,家庭で1 週間に購入される野菜の量はある程度の習慣性を有すると考えられるため,地域住民の野菜摂取量を簡易な方法を用いて現状把握し,野菜摂取増を図るために,野菜の摂取が多いと考えられる大規模地産地消施設(LPLC)消費者と,野菜購入先として最も多いスーパーマーケット(SM)消費者の野菜摂取量の比較とともに,野菜摂取に関係する知識・意識・行動レベルの差異を明らかにすることである.
【方法】平成23 年9 月に,N 市の近郊のLPLC とSM 消費者に対して質問紙による調査を行った.文書で同意が得られたそれぞれ125 名と186 名のうち不備を除いた,LPLC 群110 名(男性18%),SM群174 名(男性11%)を対象とした.内容は世帯人数,野菜に対する嗜好・知識・認識・食行動,調査日購入内容に基づく世帯あたり約1 週間相当の野菜摂取量調査を行い,世帯一人一日当たり野菜摂取量を算出し,2 群間の比較検討を行った.解析にはSPSSver.21 を用いて,χ2 検定,t 検定を行うとともに,一般線形モデル(GLM)による共分散分析,多重ロジスティック回帰分析にて,性と年齢を補正しodds を求めた.
【結果】SM 群の年齢はLPLC 群に比べて有意に低く,SM 群の一人一日当たり平均野菜摂取量はLPLC 群に比べて有意に低値であった.性・年齢で調整後も変化はなく,緑黄色野菜およびその他の野菜別でも同様の結果であった.外食の頻度,1 日の野菜推奨量・健康に生活するための野菜の重要性の認識や野菜を食べようとする意識にはいずれも差はなかった.野菜を食べる理由では,LPLC群がSM 群に比して有意に低かった項目(odds 比,95%信頼区間)は,「健康に良いと思うから」4.6(1.9┉11.4),「手間を感じないから」1.8(1.1┉3.1)であった.野菜を食べるための具体的な行動では,LPLC 群に比べてSM 群には3.9 倍(1.8┉8.7)低かった.性・年齢で調整後は 4.9 倍(2.0┉11.9)とさらに低くなった.
【結論】SM 消費者はLPLC 群に比べて野菜の摂取量が少なく,野菜を食べるための工夫や食べるための理由付け(野菜は健康に良い等)が弱く,具体的な行動がLPLC 群に比べてなされていなかった.SM を活用した野菜の摂取増のしくみづくりとともに,野菜の多いヘルシーメニュー協力店を増やすことが必要である.

ブレビバチルス発現系によるエンビジン組換えタンパク質の発現と精製

心身科学 第6 巻第1 号(119-124)(2014)
市原啓子

アブストラクト

 エンビジンはタンパク質の構造的な特徴からイムノグロブリン(Ig)スーパーファミリーに分類さ
れる細胞表面の1 回膜貫通型糖タンパク質である.モノカルボン酸トランスポーターのコファクタ
ーと考えられているが,機能に関しては不明な点が多い.著者は,エンビジンの機能を解明する目的
で,エンビジン組換えタンパク質を昆虫細胞やほ乳類培養細胞,大腸菌を用いて発現させたが,い
ずれも収量が低くて実験に利用することはできなかった.本研究では,ブレビバチルスBrevibacillus
choshinensis において,プロテアーゼ活性をほとんど示さない菌株を利用して培養上清にタンパク質
を分泌させる発現系で組換えエンビジンタンパク質の発現を試みた.まず,エンビジンの細胞外領域
のI-set ドメインの158 アミノ酸残基をコードするcDNA を特異的なプライマーを用いてポリメラー
ゼ連鎖反応で増幅し,アミノ末端(N 末端)に6 個のヒスチジンペプチドがタグ配列(His タグ)と
して連結するよう発現ベクターを構築した.このベクターDNA を用いてブレビバチルスを形質転換
し,得られたコロニーの菌体を2 SY 培地で液体培養をおこなったところ,培養上清に組換えエンビ
ジン(以下rEmb55 と略す)タンパク質が産生されていることがわかった.培養上清をNi-NTA カラ
ムにアプライした.100mM のイミダゾールでrEmb55 タンパク質は溶出された.溶出液中に3 種のタ
ンパク質が含まれていたので,それらのアミノ酸配列を同定するためにMALDI TOF/TOF による質量
分析をおこなった.2 つがrEmb55 タンパク質であったが,1 つはC 末端で分解が起こっていた.ブレ
ビバチルス発現系の収量としては低いものであるが,エンビジンの機能を調べる量としては問題ない
と考えられる

企業スポーツチームの地域貢献活動に対する意識とニーズに関する研究

心身科学 第6 巻第1 号(125-132)(2014)
内藤正和

アブストラクト

今日,企業スポーツチームは経済状況や経営状況の悪化に伴い休廃部が相次いでいる中で新たな存
在意義として地域や社会に貢献することが求められる可能性がある.そこで本研究では,企業スポー
ツチームの地域貢献活動が地域にどのように捉えられ,チームにどのような影響を及ぼしているのか
調査し,基礎的資料を得ることを目的とする.
 地域貢献活動はチームに良い影響を与えており,地域貢献活動を認知することの重要性が示唆され
た.また地域貢献活動に対してニーズはあり,選手と直接交流することができるプログラムが求めら
れている.

人生の転機の内容と生起した感情に関する研究──青年期から老年期までの横断研究から

心身科学 第6 巻第1 号(133-143)(2014)
松岡弥玲

アブストラクト

 本研究では,人生の転機における年齢差について検討した.調査参加者は19┉102 歳の584 名(男性
 236 名,女性384 名)であった.調査参加者は人生の転機の内容について,そしてその転機が起き
た時に生じた感情(ポジティブ,どちらでもない,ネガティブ)について答えた.以上の結果の中か
ら特徴的だったものをいかに述べる.( 1 )人生の転機の内容は年齢と性によって異なっていた.若
い時期(19┉22,23┉34)の転機には学業,友人関係に関するものが中年期(34┉45,54┉64)や老年期(65
┉102)に比べて有意に多かった.成人期中期ではより恋愛に関するものが若い成人期,老年期よりも
多かった.老年期は,病気・事故に関するものが若い成人期,中年期よりも多かった.家族関係と仕
事では性差が際立っており特に55┉64 歳,65┉102 歳では,女性は家族関係の転機を挙げることが多く,
男性は仕事関係の転機を挙げることが多かった.( 2 )転機の内容の違いによって,生じる感情は異
なっていた.恋愛関係や仕事はポジティブな感情を生じることが多く,対照的に病気・事故,家族関
係はネガティブな感情が生じる割合が多かった.

就寝時状態不安と睡眠中の心肺系休息機能の関連について

心身科学 第6 巻第1 号(145-151)(2014)
榊原雅人 早野順一郎

アブストラクト

 本研究は就寝前の状態不安レベルと睡眠中の心肺系休息機能の関係を検討した.非喫煙の若年者
78名(男性32名,女性46名)( 平均22.6歳[SD=3.9])が実験に参加した.参加者の自宅にて就寝直
前にスピールバーガー状態特性不安尺度の状態不安尺度への記入を求めた後,腕時計型脈波センサを
用いて睡眠中の脈波を連続的に測定した.呼吸性不整脈の大きさの代替測度として,脈拍間隔変動の
高周波(high frequency: HF)成分のパワーを算出しこれを心肺系休息機能として評価した.また,低
周波(low frequency: LF)成分のパワーについても分析し,LF/HF 比を求めた.分析の結果,状態不
安得点はHF パワーとの間で負の相関を示し(r= -.246, p<.05),同じく状態不安得点とLF/HF 比と
の間で正の相関が認められた(r=.305, p<.05).これらの結果より,就寝前の状態不安は睡眠中の心
肺系休息機能を低下させる要因の一つとなり得ることが示唆された.

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